クリニックのスタッフが定着しない本当の理由

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「採用して辞める」を繰り返す前に見直すべきこと

「またスタッフが辞めた」
「採用してもすぐ辞める。人が全然定着しない」

こうした悩みを抱えるクリニック経営者は少なくありません。

しかし多くの場合、その原因を「採用の問題」として片づけてしまっています。

本当の問題は、採用の前段階にあることがほとんどです。


「採用コスト」より「離職コスト」の方が高くつく

スタッフが1人辞めると、どれだけのコストが発生するか、整理したことはあるでしょうか。

求人広告費、採用にかかる時間、入職後の研修期間、引き継ぎのロス、残ったスタッフへの業務負荷――
これらを合計すると、1人の離職が生む損失は想像以上に大きくなります。

スタッフが辞める⇒新たにスタッフを雇用するというのを何度も繰り返すと、
採用面接や教育・研修、各種手続きなど、その都度で多大な時間的コストが割かれてしまいます。

さらに見落とされがちなのが、スタッフが定着していない場合、
患者さま一人ひとりの症状や性格に合わせた医療サービスを提供することが難しくなり、
診療の質を維持できなくなる可能性があるという点です。

離職問題は「人事の問題」ではなく、クリニックの経営品質と診療品質に直結する経営課題です。


スタッフが辞めるクリニックに共通していること

離職理由はさまざまに見えますが、現場でよく見られるパターンには共通点があります。

① 労働条件が「なんとなく」で運用されている

  • 昇給や賞与の基準が不透明
  • 休暇制度などの支援が不十分
  • 前残業が暗黙の了解になっている

これらのような、待遇への不満は日々の業務の中で蓄積されやすく、
離職の引き金になりやすいことが知られています。

給与水準だけの問題ではありません。
「何をすれば評価されるのか」
「どうすれば昇給するのか」
が見えない職場では、スタッフは将来への不安を抱えながら働くことになります。

さらに深刻なのが、条件は書面に存在するのに、経営側がそれを守っていないケースです。

「有給は取れることになっているが、実際は取れない」
「残業代のルールが曖昧なまま運用されている」
といった状態は、スタッフに「この職場は信用できない」という確信を与えます。

労働条件は「定めること」と「守ること」の両方が揃って初めて意味を持ちます。

② 「心理的安全性」が確保されていない

スタッフが長く働き続けるかどうかは、給与や制度以上に
「この職場で安心して働けるか」という感覚に左右されます。

クリニックの現場でよく見られるのが、
特定のスタッフの機嫌がその日の職場の空気を左右してしまう状態です。

  • ベテランの看護師やカウンセラーの顔色を読みながら働く
  • 何気ない発言で萎縮してしまう

といった環境では、スタッフは「安心して働けている」とは感じられません。

また、見落とされやすいのが休暇の取りやすさです。

・急な体調不良や子どもの用事で休もうとすると雰囲気が悪くなる
・有給を申請しにくい空気がある
――こうした状況が積み重ねが、スタッフが転職を考え始めるきっかけになります。

「休める制度があること」と「実際に休んでも咎められない現場文化があること」は別物です。
この両方が揃って初めて、スタッフは安心して長く働けます。

院長のビジョンに疑念を抱き、勤務量が報酬に見合わない、報われないと不満が溜まっていく。
クリニック全体がこのような雰囲気になった結果、
スタッフが集団退職してしまったという事例も実際多数見聞きされています。

  • 院長からクリニックの目標や理念の共有がない
  • 新しいルールや方針がいつの間にか変わっていて現場が混乱する

といった状態は、じわじわとスタッフの不安と不信感を積み上げていきます。

③ 教育体制が整っていない

新しく採用したスタッフが定着しない場合、教育体制に不備があるおそれが考えられます。

「見て覚えて」「やりながら学んで」という文化が残っているクリニックでは、
新人スタッフが孤立しやすく、早期離職につながりやすくなります。

特に、教える人によって内容がバラバラな状態は、サービスの質にも影響し
スタッフに「この職場大丈夫?」という不信感を与えます。


「採用を強化する」前に問うべきこと

離職が続くクリニックがよく取る対策は、「もっと採用を強化する」ことです。

しかし、入口を広げても出口が変わらなければ、状況は変わりません。

医療業界は離職率上位に位置しており、
しかも医療関係職種の入職超過率1は全産業平均を下回っています。

離職率が低くない上に採用の難易度が高い業界という特性があるため、離職防止の対策が必要です。

採用に力を入れる前に、まず「なぜ辞めているのか」を正確に把握することが先決です。
退職理由を表面的に捉えず、構造的な問題に向き合うことが、定着率改善の出発点になります。


労務コンプライアンスの整備が、定着率に直結する理由

スタッフの定着率を上げるための取り組みとして、
評価制度や職場環境の改善が語られることが多いです。
しかし、その前提として見落とされがちなのが労務コンプライアンスの整備です。

就業規則が実態と合っていない、休日の定義が曖昧、残業代の計算ルールが不明確――こうした状態のクリニックでは、スタッフが「自分の権利が守られていない」と感じた瞬間に、一気に不信感が生まれます。

ワークライフバランスがとれていない職場は、スタッフの離職率が高くなりやすい傾向です。長時間労働や休日出勤が常態化していると、スタッフのストレスが蓄積します。

逆に言えば、労働条件が明確で、ルールがきちんと守られているクリニックは、それだけでスタッフに「ここは安心して働ける職場だ」という信頼感を与えます。

制度の整備は、スタッフへのメッセージでもあります。


「採用して辞める」サイクルを抜け出すために

定着率の改善は、一つの施策で解決できるものではありません。

評価制度、教育体制、労務コンプライアンス、コミュニケーション設計――これらが連動して初めて、スタッフが「ここで長く働きたい」と思える職場になります。

特に、クリニックを運営する院長が柔軟な働き方に解を示すことで、現場のスタッフは心地よく働くことができ、院全体のモチベーション維持・向上につながります。

経営者自身が「スタッフを大切にする」という姿勢を制度と行動の両方で示すこと。それが、長期的な定着率向上の根幹になります。


まとめ:定着しないのは「人の問題」ではなく「仕組みの問題」

スタッフが定着しない原因を個々の人材の問題として片づけているうちは、状況は変わりません。

  • 労働条件・評価基準が不透明、もしくは守られていない
  • 特定のスタッフの機嫌が職場の空気を支配している
  • 制度上は休めるが、実際には休みにくい現場文化がある
  • 教育体制が整っていない
  • 経営方針や将来像がスタッフに届いていない

これらはいずれも、経営側が整えるべき「仕組み」の問題です。

採用コストをかけ続けるより、今いるスタッフが辞めない環境を作ることの方が、長期的には経営を安定させます。「採用して辞める」サイクルを抜け出すための第一歩は、今の現状を正直に棚卸しすることです。


ご相談・お問合せ

「離職率が高く、採用コストが膨らんでいる」
「スタッフが定着しない原因を整理したい」
「労務・評価・教育体制をまとめて見直したい」

こうしたご相談を、クリニック経営の現場から多くいただいています。

当社では、クリニックの実態に合わせた組織・労務の整備を、経営全体の観点からサポートしています。「何から手をつければよいか分からない」という段階でも、お気軽にご相談ください。

  1. 「入職率(新たに雇い入れた割合)」から「離職率(辞めた割合)」を引いた値のこと。
    労働者が「入ってくる数」が「辞めていく数」をどれだけ上回っているか(あるいは下回っているか)を示す指標。医療業界は離職超過の傾向。 ↩︎
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