医療法人のM&Aとは?相場やメリット・手続きの流れを解説

医療法人のM&Aをするために何を考慮すべきか積み木で示したイメージ画像

医療法人のM&Aは、単なる売却や買収ではなく、患者・職員・地域医療を引き継ぐための重要な経営判断です。
近年は後継者不足や経営環境の変化を背景に、第三者への承継を選択する医療法人が増えています。
本記事では、医療法人M&Aの現状や相場、譲渡側・譲受側それぞれのメリット、具体的な手続きの流れ、成功のための注意点まで詳しく解説します。

目次

医療法人のM&Aの現状

医療法人のM&Aは以前よりも一般的な選択肢となりつつあります

高齢化による後継者不足だけでなく、制度改正や経営環境の変化も背景にあり、第三者承継を検討する医療法人は年々増加しています。

ここでは、医療法人M&Aが増えている主な要因について解説します。

医療法人M&Aの主なスキーム比較表

医療法人M&Aでは、法人形態や承継したい範囲によって適したスキームが異なります。代表的な手法である「出資持分譲渡」「事業譲渡」「合併」の違いを整理すると、次のようになります。

比較項目 出資持分譲渡 事業譲渡 合併
概要 出資持分や社員としての地位を譲渡し、医療法人全体を承継する方法 クリニックや病院など、特定の事業・資産を切り出して譲渡する方法 複数の医療法人を1つの法人に統合する方法
承継範囲 法人全体 特定の事業・資産 法人全体
行政手続き 比較的少ない 開設・廃止届などが必要になる場合がある 行政認可や債権者保護手続きなどが必要
職員との雇用関係 原則として継続しやすい 再雇用手続きが必要になる場合がある 原則として継続しやすい
簿外債務リスク 引き継ぐ可能性がある 一定程度遮断しやすい 引き継ぐ可能性がある
期間の目安 1〜3か月程度 6か月以上 1年前後
向いているケース 医療法人全体をスムーズに承継したい場合 一部の診療所や事業だけを譲渡したい場合 地域医療再編や法人統合を進めたい場合

医療法人M&Aでは、スキームによって手続き・期間・リスクの引き継ぎ方が大きく変わります。特に出資持分の有無、行政手続き、職員雇用、簿外債務の確認は、早い段階で整理しておくことが重要です。

深刻化する後継者不足の現状

多くの医療法人では理事長や院長の高齢化が進んでいます。

一方で、子どもが医師であっても継承を希望しないケースや、勤務医としてのキャリアを優先するケースも少なくありません。

その結果、院内承継が難しくなり、第三者へ事業を引き継ぐM&Aが有力な選択肢となっています。

地域医療を継続する観点からも、後継者不在による閉院を避ける手段として注目されています。

医療法における出資持分なし法人への移行問題

医療法人制度では、出資持分あり法人から持分なし法人への移行が進められてきました。

持分あり法人の場合、将来的な相続や承継時に大きな課題となることがあります。

そのため、事業承継対策の一環としてM&Aを検討するケースも増加傾向にあります。

法人形態によって譲渡方法や税務上の論点が変わるため、早い段階から整理しておくことが重要です。

経営環境の変化と競争の激化

人口減少や診療報酬改定、人件費の上昇などにより、医療機関を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。

また、地域によっては医療機関同士の競争も激化しており、単独での経営継続が難しくなるケースもあります。

こうした状況のなかで、経営基盤の強化や事業継続を目的としてM&Aを選択する医療法人が増えています。

医療法人のM&Aの相場

医療法人M&Aの価格は一律ではなく、診療科目や立地、収益性、患者数、スタッフ構成などによって大きく変動します

一般的な診療所の場合、譲渡価格は1,000万円〜1億円程度が一つの目安です。収益性の高い医療法人や地域で高い評価を得ているクリニックでは、1億円を超えるケースもあります。

算定方法としては、純資産に営業権(のれん)を加算する方法が広く用いられます。

目安としては以下の考え方が一般的です。

純資産+営業利益の2〜5年分

例えば、

純資産3,000万円
年間営業利益2,000万円

の場合、

3,000万円+(2,000万円×2〜5年)

となり、7,000万円〜1億3,000万円程度が評価レンジとなります。

ただし、医療法人特有の許認可や地域事情、人材状況なども評価に大きく影響するため、実際には個別査定が不可欠です。

医療法人のM&Aを行う譲渡側のメリット

医療法人を譲渡することには、単に経営から退く以上のメリットがあります。

後継者問題の解決だけでなく、創業者利益の確保や財務リスクの整理につながるケースも少なくありません。

ここでは譲渡側の代表的なメリットを紹介します。

後継者問題の解決とクリニックの存続

後継者が見つからない場合でも、第三者へ承継することでクリニックを存続させることができます。

長年通院している患者や地域住民にとっても、医療提供体制が維持されることは大きなメリットです。

閉院という選択肢を回避しながら、自身の引退計画を進められる点は大きな魅力といえるでしょう。

創業者利益の獲得とリタイア資金の確保

長年かけて築いてきた医療法人の価値を譲渡対価として受け取れることも重要なメリットです。

老後資金や新たな事業への投資資金として活用できるほか、経営者個人の資産形成にもつながります。

特に収益性の高いクリニックでは、想定以上の評価額になることもあります。

個人保証や担保の解除

医療法人経営に伴う借入金について、理事長個人が保証人となっているケースは少なくありません。

M&Aによって金融機関との調整が進めば、個人保証や担保責任から解放される可能性があります。

引退後の経済的リスクを軽減できる点は見逃せないメリットです。

医療法人のM&Aを行う譲受側のメリット

譲受側にとっても、医療法人M&Aには新規開業にはない多くの利点があります。

時間やコストの削減だけでなく、既存の経営基盤を活用できることが大きな魅力です。

新規開設に伴う時間とコストの削減

新規開業では物件選定や内装工事、スタッフ採用、広告宣伝など多額の投資が必要になります。

M&Aであれば既存施設を活用できるため、開業までの期間を短縮しながら初期投資も抑えられます

早期に診療を開始できる点は大きなメリットです。

既存の患者や医療スタッフの引き継ぎ

既に患者基盤が形成されているため、開業直後から一定の売上が見込めます

また、経験豊富な医療スタッフが継続勤務することで、診療体制を安定的に維持しやすくなります。

ゼロから組織を立ち上げる負担を軽減できるでしょう。

既存の知名度や地域での信頼の獲得

地域で長年運営されてきた医療機関には、患者や関係機関との信頼関係があります

そのブランドや認知度を引き継げることは、新規開業にはない大きな強みです。

地域医療への早期定着にもつながります。

医療法人のM&Aの手続きが進む基本的な流れ

医療法人M&Aは一般企業のM&Aとは異なり、医療法や行政手続きへの対応が必要になります

スムーズに進めるためには、全体の流れを事前に理解しておくことが大切です。

事前の準備と自院の価値算定

まずは譲渡の目的を整理し、自院の財務状況や経営状況を把握します。

そのうえで、資産や収益力をもとに企業価値を算定します。

早い段階で課題を洗い出しておくことで、交渉時のトラブル防止にもつながります。

仲介会社への相談と相手方の選定

M&Aを進める際は専門家への相談が重要です。

候補先の探索や条件交渉、資料作成などをサポートしてもらうことで、効率的に進められます。

秘密保持を徹底しながら適切な相手先を選定することが求められます。

基本合意書の締結とデューデリジェンスの実施

譲渡条件がおおむね合意できた段階で基本合意書を締結します。

その後、財務・税務・法務・労務など多方面から調査を行います。

簿外債務や訴訟リスクなども確認し、最終条件の調整を進めていきます。

最終契約の締結と行政への認可申請

デューデリジェンス完了後に最終契約を締結します。

スキームによっては行政への認可申請や届出が必要となります。

医療法人特有の手続きも多いため、スケジュールには余裕を持って進めることが大切です。

医療法人のM&Aを成功させるための注意点

医療法人M&Aは契約締結がゴールではありません。

譲渡後も安定した医療提供体制を維持するためには、事前準備や関係者対応が極めて重要です。

信頼できる専門の仲介会社を選ぶこと

医療法人M&Aには医療法や行政手続きに関する専門知識が求められます。

そのため、医療分野の実績が豊富な専門家を選ぶことが重要です。

経験不足の仲介会社では、思わぬトラブルにつながる可能性があります。

綿密なデューデリジェンスを徹底すること

財務面だけでなく、労務問題や診療報酬請求の状況、契約関係なども詳細に確認する必要があります。

見落としがあると譲渡後の大きなリスクとなるため、慎重な調査が欠かせません。

従業員の雇用維持や処遇を最優先すること

M&Aに対して不安を抱く職員は少なくありません。

説明不足によって退職者が増加すると、診療体制そのものに影響が出る可能性があります。

適切なタイミングで丁寧な説明を行い、安心して働ける環境を整えることが重要です。

医療法人のM&Aに関するまとめ

医療法人のM&Aは、後継者不足や経営環境の変化が進むなかで重要性を増しています

譲渡側には事業承継や創業者利益の確保というメリットがあり、譲受側には患者基盤や人材を引き継げる利点があります。

一方で、医療法人特有の法規制や行政手続きへの対応も必要です。

成功のためには早期準備と適切な専門家の活用が欠かせません。

将来の選択肢を広げるためにも、まずは現状把握から始めることが重要です。

ご相談・お問合せ

「後継者がいないため、将来的にM&Aを検討したい」

「自院の譲渡価値がどの程度あるのか知りたい」

「医療法人M&Aの進め方や注意点を整理したい」

こういったご相談を、クリニック経営の現場から多くいただいています。

当社では、医療法人の承継やM&Aについて、財務・人事・組織運営まで含めた経営全体の視点からサポートしています。

「まずは自院の状況を整理したい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

クリニックの開業支援から経営改善までをトータルサポートするKSメディカルサポートの専門コンサルタント・マーケター陣による共同編集チームです。
現場で培った最新の経営ノウハウや集客戦略など、クリニック経営の活性化に直結する一次情報をお届けします。

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