休日のLINE・電話連絡、クリニックは今すぐルールを見直すべき理由

「つながらない権利」が示す、労務管理の新しいリスク
「休みの日だけど、急ぎの件があるからLINEしておこう」
「シフトのことで確認したいから、電話しても大丈夫かな」
クリニックの現場では、こうした休日連絡が日常的に行われているケースが少なくありません。
しかし今、この「当たり前」が経営リスクになりつつあります。
「つながらない権利」とは何か
「つながらない権利」とは、
労働時間外に業務上のメールや電話への応答を拒否できる権利のことです。
フランス・イタリアなど欧州では既に法制化されており、
日本でもガイドライン策定が検討されています。
2025年1月、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表し、
メール・チャット・電話などでの勤務時間外の連絡禁止や制限を
「つながらない権利」として位置づける方向で、
ガイドラインの策定や指針の整備が検討されています。
ただし、2025年12月26日、厚生労働大臣は
「2026年の通常国会での法案提出は現在のところ考えていない」と明言しました。
見送りはあくまで「提出時期の延期」であり、改正議論の中断ではありません。
つまり、法律としての義務化はまだ先であっても、方向性は変わっていないということです。
「法律になってから対応すればいい」では遅い理由
法改正が見送られたことで、「しばらくは大丈夫」と判断してしまうクリニックも出てくるでしょう。
しかし、それは2つの意味で危険です。
① すでに現行法でもリスクがある
労働時間とは、働いている側の業務内容が
上司の指揮や命令によるものだと判断される場合に認められます。
つまり本来の労働時間外に、メールや電話に対応するよう指示されている場合や、
上司からのメールに対応した場合などが労働時間になります。
休日にLINEや電話で業務指示を行い、スタッフが実際に対応した場合、
それはすでに「休日労働」として扱われる可能性があります。
その場合、35%以上の休日割増賃金が発生します。
「ちょっと確認しただけ」「返信は任意にしていた」という感覚では、法的なリスクを回避できません。
② 採用・定着への影響が今すぐ出る
「帰宅して休みたいのに、メールや電話がいつまでも来る」
「休日なのに責任をもって返信しなければならない空気がある」
といった状況が、従業員の心身の負担やモチベーション低下につながる事例が増えています。
求人倍率が逆転し、スタッフが職場を選ぶ時代において、
休日連絡が当たり前のクリニックは「選ばれない職場」になるリスクを抱えています。
法律が施行される前から、すでにスタッフの離職・採用難という形で影響は出始めます。
クリニックで特に起きやすいケース
一般企業と比べて、クリニックには休日連絡が発生しやすい構造があります。
- 病欠者の急な調整
- 翌日の施術・オペに関する確認
- 患者対応に関するイレギュラーの共有
- 院長・事務長からの「ちょっと確認」
これらはいずれも「業務上必要な連絡」という認識で行われます。
しかし、受け取ったスタッフ側からすれば、
対応しないわけにはいかないプレッシャーがかかる連絡です。
「任意の連絡」のつもりでも、立場の非対称性がある以上、
スタッフにとっては事実上の業務命令と受け取られます。
今から整えておくべきルールの考え方
2026年以降の監督指導で重点化が確実視されているのが、
休日の連絡・チャットの業務扱い問題です。
法律が確定する前に、自院の運用を見直しておくことが得策です。
整備しておきたいのは、主に以下の観点です。
休日連絡の原則と例外を定める
「休日は業務連絡を原則行わない」というルールを就業規則に明記したうえで、
緊急時の例外対応と、その場合の賃金処理のルールを整備しておくことが必要です。
「任意」と「義務」の線引きを明確にする
連絡を受けたスタッフが対応するかどうかの判断基準を
明示しておかないと、暗黙の強制が生まれます。
「既読したら対応義務が発生する」という空気自体を、制度として排除する必要があります。
管理職・院長自身の意識を変える
管理職への教育・研修が最優先であり、管理職の深夜メールが最も問題になります。
クリニックの場合、院長や事務長が直接スタッフに連絡するケースが多いため、
経営側の意識改革が制度整備と同じくらい重要です。
まとめ:ルールがないこと自体が、リスクになる
休日連絡のルールがない状態は、
- 現行法でも休日労働・未払いリスクが潜在している
- スタッフのモチベーション低下・離職につながる
- 今後の法整備が進んだとき、対応コストが跳ね上がる
という複合的なリスクを抱えています。
「法律になってから考える」ではなく、「法律になる前に整えておく」が、
経営リスクを最小化する選択です。
制度を整えることは、スタッフを守ることと、クリニックを守ることの両方につながります。
ご相談・お問合せ
「休日連絡のルールをどう作ればよいかわからない」
「就業規則に何を明記すればリスクを回避できるか確認したい」
「労務コンプライアンス全体を一度整理したい」
こうしたご相談を、クリニック経営の現場から多くいただいています。
当社では、クリニックの実態に合わせた労務コンプライアンスの整備を、
経営全体の観点からサポートしています。
「何から手をつければよいかわからない」という段階でも、お気軽にご相談ください。


