現在の日本では、一般社団法人であってもクリニックを開業することができます。しかし医療機関は、その性質上、非営利のものでなければならないとされています。営利目的でクリニックを運用することが認められてしまえば、医療の基本概念である「健康を守り、保持すること」がおろそかになってしまうからです。
しかしこの「非営利」という言葉は、難しい意味を含む言葉でもあります。
ここでは、「一般社団法人が開業する際に求められる『非営利性』の決まりと意味」について解説していきます。
一般社団法人開業のクリニックの「非営利」とは
一般社団法人が開業するクリニックは、法律によって、非営利性の徹底のルールが課せられます。
そのルールとは、
1.剰余金の分配の禁止…資本金でもなく準備金でもない「剰余金」を分配してはならないとするルール。一般的な会社の場合はこれの分配が認められているが、クリニックは一般社団法人開業のものでも医療法人開業のものでも認められていない。
2.解散したときの残余財産は、国などに贈与すること……解散時には余ったお金や財産が出ることがあるが、その場合は公益性を持つ国・地域公共団体などにそれを贈与することを定めたルール。なお、持ち分のない医療法人でも同様のルールが課せられるが、医療法人の場合は持ち分があればそれに応じた分配をすることは認められている。
3.複数人の理事を置く場合、その理事の家族・親族の数が全体の理事数の3分の1以下とすること…「親族で固めた一般社団法人運用のクリニック」になることを避けるために定められたルールだが、これは一般社団法人のクリニックにのみ適用される。医療法人開業の場合は、この制限を受けない。
4.①②④に違犯することを決めたり、実行したりしたことがないこと…上記のルールに違犯して、税務署から「非営利性を徹底していない」と判断された場合、開業ができなくなるというルールであり、違犯していた場合はすでに開業済みでも閉業しなければならなくなることがある。
なおこれは「過去に一度でもそのように判断された場合は、二度と「非営利性の徹底された法人」になれなくなる。
の4つです。
クリニックは儲けてはいけないのか?
上記のルールを見ていると、「一般社団法人のクリニックではお金を稼いではいけない」「利益を得てはいけない」とも思えてきます。
しかし実際には、一般社団法人の開業したクリニックであっても、利益を得ることは当然認められています。ルールで規制されているのは、「利益の分配」であって、「利益を得ること」自体は否定されません。そのため、たとえば、下記のような使い方は、ルール違反とは認められません。
得た利益を
・内部留保する
・スタッフや理事などに給料として支払う
・新しい機器や、診察室やリハビリ室などを増設するために使う
などのケースは、非営利性の徹底とは何も矛盾しないのです。
また、「理事長のうちの一人が、個人の資産として土地を有していて、その土地にクリニックを建てた。土地の賃料として、理事にお金を払っている」というような、理事に直接的にお金が入るシステムの場合も、基本的には問題ありません(ただし周辺の地価情報と比較して、明らかに逸脱した金額の場合は咎められます)。
このため、一般社団法人によって改行されたクリニックであっても、利益を得ることまたその利益を常識的な範囲で支払うことはまったく問題がないのです。そもそもまったく利益を得ないでおこうとした場合、クリニックの運営自体が不可能になってしまい、廃業しなければならなくなります。
このような状況に陥ることは、医療法の
「国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されるよう努めなければならない」
引用:厚生労働省「医療法」第一条の三
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80090000&dataType=0&pageNo=1
の理念から考えても望ましくはないでしょう。
一般社団法人開業のクリニックでは、非営利性を徹底しながらも、存続のために必要な利益を得、それを適切に使っていくかじ取りが求められます。
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